I call Your name

(あい こーる ゆあ ねーむ)

作者

佐座創紀(さくらそうき)

概要

私があなたの名前を呼ぶ時……それはきっと

登場人物

  • 潮崎 愛女性
  • 冬凪優人男性
  • 会沢友美女性

本編

I call Your name(あい こーる ゆあ ねーむ)

<構成>
第1話 ルームシェアの始まり
第2話 朝食に気づく、朝
第3話 鏡に映ったふたり
第4話 カフェで伝えたい想い
第5話 さよならになる前に


***第1話***

***

*優人のスニーカーの足音が近づく
*愛のヒールの音
*踏切の音

優人:終電終わってんな
愛 :今から走ってって乗ればいいじゃん
優人:あのなぁ、それしなくていいように、明日休みとってんのにさ
愛 :まだ、わかいんだしさー
優人:うるせぇ、もう、30なかば過ぎたらおっさんだよ
愛 :元サッカー部、走ってこいよー
優人:おっさんなんだよ、もう。っつーか、お前も一緒だろうが
愛 :やだ、一緒にしないでよ
優人:もう、アラサーとか言えねぇからな、昭和生まれの同級生さん
愛 :ハイハイ、うっさいうっさい
優人:女子連中もさーがんばって若作りしても、話題がアレだよ、いってんなーって
*踏切の音が終わって歩き始める
*二人の足音がつづく
愛 :そういうこと言うと、ぶっ殺されるよ?
優人:西浜はさ、(にしはま)
愛 :なに?
優人:がっかりしねぇわけ?
愛 :なにに?
優人:同窓会。
愛 :べつに。
優人:でました、これだよ。
愛 :なにが?
優人:数年前の、テレビ女優の発言を、同じテンションで持ってくるわけですよ
愛 :そういう(つもりじゃないし)
優人:(食い気味に)年取るっつーのはな、そーゆーことなんすわ
愛 :酔ってんの?
優人:酔って無ぇ
*走ってくる友美
友美:ゆうとー、あいちゃーーーん(遠い)
愛 :酔ってるよね
優人:酔って無ぇって
愛 :酔ってるんでしょ?(茶化している)
友美:ゆうとー、あいちゃーーーん(遠い)
優人:酔って無ぇよ
愛 :完全にくだまいてるし
友美:あいちゃーーーん、ゆうとー(近い)
愛 :ともちゃん、
友美:(息切れしてしんどい)あいちゃん、
優人:どうしたの?そんな走って
愛 :大丈夫?
優人:ともみもさ、もう、若くないんだから、な
愛 :どうしたの?
友美:(息切れして、話し出せない)ふたりが、さ、
優人:いいか、昭和生まれ、体力ってのはな、20代を最後に下降線をくだるわけだ
友美:ふたりが、
愛 :ともちゃん、
優人:こう、ずーーーーーっと、くだってくわけ、おれたちはもう、この、ここの、このへんなわけよ
友美:ふたりが、三次会行かないって聞いて
愛 :うん、行かないけど?
優人:平成生まれは、今、ここな、けど、今、昭和生まれは、もう、この、ここ、ここまできてるわけよ
友美:記念品、
愛 :記念品?
優人:例えば、スキーのジャンプでも、こっから飛び立ったらもう、たいして飛べないわけ
友美:今日のね、同窓会、のね、
愛 :いいよ、急いでないから、ゆっくりで
友美:大丈夫、どうせ、待ってても、回復しな、いから、つくったの、記念に
愛 :もらっていいの?
優人:もう、そんなところに来ちゃってるわけよ、おれたちはよぉ
友美:みんなのぶんあるから、あの、うちの、会社で、あまったやつに、卒業年入れて、
愛 :あぁ、すごい、お箸?
友美:不良在庫、に、だから、色はバラバラだけど、原価タダみたいなもんで、
愛 :ありがと
優人:そう、もう、不良在庫になっちまう歳なわけよ
友美:けっこう飲んでたんだね、ゆうと
愛 :そうみたい
友美:ふたりで、どっか、いくの
愛 :んなわけないじゃん
友美:はぁ、しんどい。
愛 :大丈夫?
友美:後ろからみてたらちょっといい感じだった
愛 :ないない
友美:ゆうとはさ?ないの?愛ちゃん?
優人:いらねぇよ、不良在庫に、刻印入れなおしても使えねぇし
友美:素直じゃないなぁ。愛ちゃんも愛ちゃんだよ?こういうタチの悪いおっさんのカタマリには、ガツンと言ってやらないと
愛 :まぁ、酔ってるし、
友美:もう、そういうこと言ってるから、はずれくじ引くんだよ?
愛 :まぁ、もう、バツ一本引いてるし、大丈夫
友美:ゆうとー
優人:なんだよ、おばさん
友美:愛ちゃんおっけーらしいよ
愛 :な、なんでそうなるの?
優人:じゃ、よろしくー
愛 :いや、まだ、タクシー走ってるし、さ
友美:愛ちゃん、
愛 :は、はい
友美:アタシもさ、こっち走ってきた理由があってさ
 *立ち止まる3人
優人:ここだろ?
愛 :ここじゃないけど、
友美:え?ここじゃなかったっけ?
愛 :これの、隣。
友美:こっち?
愛 :そっち
優人:惜しー
友美:神様、仏様、愛ちゃんさま
優人:なぁ、いいじゃん?
愛 :そりゃ、部屋は余ってるけど
友美:終電なくなってさ、ホテルも、もう、とれないしさ
優人:友美は俺と泊まればいいじゃん
友美:それだけは死んでもさけたいじゃん?ね?愛ちゃん?
愛 :ともちゃんは前回もうち来たからいいけど
友美:やった
優人:そゆことで、よろしくおねがいしまっすっす
愛 :そういうときだけ調子いいんだから
優人:とりあえず、トイレ貸してください
愛 :もう、馬鹿なんだから
友美:ゆうと、そっちちがうよ、ひとんち
優人:え?なに?そっち?

    ***

 *扉が開いて、スリッパの音2人
友美:おじゃましまーす
愛 :テキトーにテレビでもつけていいよ。今お茶淹れるから
 *水道の蛇口の音
友美:こんなに広かったっけ?
愛 :広くないよ。前と一緒
友美:そりゃ、そうなんだけど
愛 :いらないものとか、壊れたものとか、まぁ、アタシら子供いなかったから、片づけるもの片づけたりして、
友美:前回の同窓会のあとから?
愛 :4年もあれば、どうにでもなるもんよ?
 *扉が開いて、スリッパの音1人
優人:あー、あぶなかった
友美:おじゃましますくらいいいなよ
優人:あ、うん。愛、お茶
愛 :はいはい
友美:なにそれ?
 *ソファに腰をおろす優人
優人:はー
友美:えらそうに座りやがって
優人:君も、座りたまえ、馬鹿みたいにつったってないで
愛 :えらそう、ともちゃんも、そっち座って
 *お湯を急須に注ぐ音
優人:あー、やべぇ
友美:なに?やっと飲みすぎたの自覚したの?
愛 :水、いる?
優人:ぐわんぐわんなりだした
 *愛が台所から、歩いてくる
愛 :はい
優人:すまん
愛 :ともちゃんも、お茶どうぞ
友美:ありがと。
愛 :私も座ろう、つかれたー
優人:お茶ある?
愛 :あるよ、そこおいてる
優人:おう、そうか
友美:おう、そうか、じゃないでしょーそこは、ちゃんとしなさいよ、ぐだぐだしてないでさー
愛 :ともちゃん、まぁまぁ
優人:いーじゃん、ひさしぶりの有給休暇くらいさー
愛 :とったんだ?
優人:とったよ、4年前の同窓会で学んだよ、翌日仕事とか、マジで無理だから
友美:えらいねー、ゆうとくん、ゆうきゅうとれたんでちゅかー
優人:はいはい、とれました。とってきました、とってきて、これだよ
愛 :まぁ、明日の心配ないんなら、いいんじゃない?
友美:愛ちゃんはやさしーねー、人ができてる
優人:はいはい、俺はできてませんよ、なにもかも
友美:自覚してんなら、ちゃんとしなさいよ
愛 :だいぶさめてきたね、水いる?
優人:いや、お茶でいい
愛 :はい
友美:愛ちゃんさー、おちついたら、このがらくたひきとってあげてよー
愛 :はい?
優人:がらくた?まだなんかやんの?卒業年度の入った箸はふたつもみっつもいらねぇよ
友美:うるさい、おまえだよ
優人:あー、無理無理。
友美:ゆうとに選べる権利はないんだよ
愛 :しばらくいいや、そういうの
優人:はーい、じゃあー、俺ー、ここー住みたいでーす
愛 :はいはい、いいですよ。お好きにどうぞ
友美:そういうこというとさ、ホント、来るよ?こいつ。家賃33年分滞納してんだから
優人:してねぇし、そんなに住んで無ぇし、生まれた瞬間から滞納ってなんだよ
愛 :優人も優人でさ、実際くるわけないじゃん? こんな、おばさんの家に、今日みたいに一晩雑魚寝で泊まるならまだしも、
友美:後悔しない?
愛 :え?
優人:ふあーーー、眠みぃ
友美:ホント、後悔しない?
愛 :いや、そんな、こんな家に、住むわけないじゃん? ねぇ?優人さん?


 *朝。鳥のさえずり、
 *家のチャイム
優人:おはよーございまーす
友美:おはよーございまーす
愛 :うそでしょ?
優人:よぉ、1か月ぶり?
友美:来ちゃった
愛 :本気?
優人:まぁ、荷物は、数日後に
愛 :家は?
優人:ちょうど、なんていうの?締日?みたいな?
友美:ちょうど2年だったんだって
優人:じゃ、そゆことで、こっからだと、職場も近いんで、よろしくおねがいします
愛 :はぁ、まぁ、いいよ、飽きるまでどうぞ
友美:あいちゃーーーん、きいてよー。
愛 :え?なになに?
優人:もう、ずっと朝からうぜぇんだよ、こいつさーぐちぐちぐちぐちさー
友美:うざいとかなによー、愛ちゃーん、うちの旦那ひどいんだよ!
愛 :なに? とりあえず、聞いてあげるから、中へ入ろうか?
友美:お土産で買ってきたプリンも、大福も、ぜんぶ食べちゃったんだよーひとりでー、いちご大福だよー、遠野屋(とおのや)のいちごだいふくをさー、マジで信じらんない

 *友恵のセリフ途中で玄関の扉 しまる


愛(N)「同窓会の夜。3人で話した他愛もないこと。
    なんだか突然だったけど、
あるモノほとんど捨て去って、すっかり箱だけになった私の家。
    やっとあいたスペースに、なぜかふたりも転がり込んできた

タイトルコール愛(N)「I call Your name(あい こーる ゆあ ねーむ)第1話

  -ここで第1話終わり-



 ***第2話***



*朝 鳥のさえずり
*廊下を歩くスリッパの音
*台所で目玉焼きかなにか焼く音

友美:おはよ
優人:なにしてんの?友美?台所なんか立って?
友美:コーヒーでいいよね、それ以外の選択肢はあんたにないけど
優人:無いんなら聞くなよ(寝ぼけてやさしめに)
友美:はい、どうぞ
 *コップとお皿が出される音
優人:なになに、すげぇ贅沢な朝食セット出たけど、どうしたの?
友美:どうしたのってなによ
優人:トーストと、コーヒーと、目玉焼きと? いや、だって、友美がこういうのすると、雨降りそうじゃん
友美:あのねぇ、アタシだって、そりゃ昨日からこっち来て2日目だけどさ
優人:こどもふたりほっといて? いただきます
友美:いいの。あっちのお父さんとお母さんには理解してもらってるから
優人:同居ですか。たいへんですねぇ
友美:愛されてますから。ご両親に
優人:旦那にはプリン食べられちゃうけど?
友美:いちごだいふくもです!
優人:そんなんで家出するかね
友美:小旅行よ小旅行
優人:西浜は?
友美:まだ寝てる
優人:仕事は?
友美:今日は無いって
優人:俺も、ほとんど暦通り動いちゃいるけどさー
友美:うん
優人:なんか、いちにちサボって休むだけで、なんか、ずいぶんちがうのな
友美:今日のこと?
優人:まぁ、昨日今日もそうだけどさ、先月の同窓会のあととか
友美:有給休暇ってのは、あるときにはとっとかないと
優人:お、専業主婦のママがなんか言ってら
友美:子育てには休みもないし、まして、専業主婦には休日も無いの
優人:お、その口がいう?
友美:今日は、っていうか、今週だけは、あと3日だけは特別なの
優人:そういうもんかね
友美:でも、あれよね
優人:なに?
友美:こっちきてさ、たった二日こどもの声聞かないだけでさ、
優人:目玉焼きうめぇな
友美:代えが利かないって、実感すると
優人:旦那のことも許せると?
友美:まぁね
優人:プリンも許せると
友美:それも、まぁ、ね
優人:いちご大福も許せると?
友美:それは無理
優人:なんなんだよ、初日と変わってねぇじゃん
友美:でも、なんていうかさ、
優人:ん?
友美:高校生くらいのときは、もしかしたら、このクラスの男子の誰かのこども生むんじゃないかなぁ、とか考えてたじゃん?
優人:俺が生めるとは一瞬も思ってなかったけど
友美:わかってて茶化さないでよ
優人:どうぞ
友美:高校生の時感じてる世界ってさー、すっごくひろいと思ってたけど、狭かったのよね。ずいぶんと
優人:なんか達観してるね
友美:けど、まぁ、あれよ
優人:なに?
友美:おさまるところに、おさまったのかしらねぇって、
優人:思うの?
友美:そ。変わるべくして、アタシの苗字は、町田(まちだ)から、会沢(あいざわ)になったのね?なんて
優人:はぁ
友美:思うわけよ
優人:いちご大福食べられて、後悔は無い。と?
友美:まぁ、ちいさいことはあるけど、よかったのかな?なんてね
優人:なにがあなたをそう思わせたの?
友美:優人につくる朝食は、アタシの人生において、必要無いわって
優人:そこかよ
友美:だから、あれよ、あれ
優人:なに?
友美:あんたもさ、おさまるとこにおさまんなさいよ、ずっと独身やってないでさ
優人:そう言われてもな
友美:べつにモテないわけじゃないでしょうに?
優人:かといって、特別モテるわけでもないでしょうに?
友美:まぁ、外見(そとみ)はそこそこでも、中身(なかみ)はクズの塊だもんね
優人:よくわかってんじゃん
友美:あー、よかった
優人:なにが?
友美:あんたじゃなくて
優人:いちご大福食ったのが?
友美:そ

 *ドアが開いて
 *スリッパの音 ??愛

愛 :……おはよ
友美:おはよ
優人:おはよ
愛 :なんだろこれ
友美:朝ごはん、準備するね
愛 :いいよ、自分でやるから
友美:このくらいさせてよ
 *フライパンに卵を落とす音
愛 :いいのに
優人:愛、座れ
愛 :じゃあ、お言葉に甘えて
 *食卓の椅子に座る愛
優人:あのな、こういうのはやりたいっていうヤツにやらせれば
愛 :あー、頭重い
友美:昨日、飲みすぎた?
優人:寝すぎじゃねぇの?
愛 :わかんない。普段呑まないのに、二日連続で、家呑みとか……
友美:はい、おみおつけ
愛 :いただきます
 *はしを手にとり、お味噌汁にくちをつける愛
愛 :あーーーー、しみる
友美:日本人なら、味噌汁やろがー
優人:それ、なんかちがくない?
愛 :……おちゃづけ
 *トースターの焼きあがる音 チンッ
優人:あー、そっちか
友美:はい、パンと、コーヒーと、目玉焼き
愛 :あー、なんかまともに朝ごはんって感じ
優人:もう、2時だけどな
愛 :うそ
友美:お酒、残るひと?
愛 :わかんない。こんな感じには、ほとんどならないけど、職場の飲み会とか、ぜんぜんまともに飲む気にならないし
友美:あー、家呑みだから?
愛 :安心感がヤバイかも
優人:そりゃ、あんだけ開けりゃ、世話ないわ
愛 :まぁ、けっこう飲んだけど
優人:これ、はまるヤツだな
友美:うそぉ、そんなでもないでしょ?
愛 :今日はワインにしようかな
友美:愛ちゃん、のんべぇかもね
愛 :ひとりじゃ飲まないけど
友美:明日は、でも、仕事でしょ?
愛 :まぁねー。有給休暇とって、赤い日で、明日行って、土、日?
友美:もっと、わがままに休めばいいのに。ふたりともぜんぜん有給という権利を行使しない
愛 :代わりがいないもん
優人:代わりがいないもん
友美:そゆもの?
愛 :いや、本当は、代わりはつくるもんなんだけど、けど、前後でなんかぐちぐち言われる空気みたいなの、なんか嫌だし
優人:そゆもんよ
友美:社会人やってんのもたいへんね
愛 :他に行くとこないし。引き取ってもらえる廃品回収も、もう無いしね?
優人:代わりはいるんだけどな。俺の仕事なんざ、俺がいなくなっても、誰かやるんだし
愛 :そ。わかってはいるけどね、どこかで、思い込みたいんじゃない? 自分がいなきゃ、きっとダメなんだろうな。とかって
優人:あー、わかるわ
愛 :実際に『潮崎愛』が会社に居なくても、何も変わらずに回っていくのを、見たくないんじゃないかなぁ
友美:こどもつくればいいのに
愛 :まぁ、ね
優人:ついこの前、整理整頓終わったばっかのやつにいうかそれ?
愛 :理論的には、賛成
友美:一般論よ?一般論?
愛 :けど、相手もいないし
友美:いるじゃん?隣に、ゴミみたいなのが
愛 :どこ?
優人:こっち
愛 :あー、いたんだ?
優人:あのな
愛 :あーぜんぜーん気づかなかったーー
友美:よかったね?、気づいてもらえて
優人:ええ、ゴミ箱と間違えられる前でよかったですよ
友美:そゆのないの?
優人:言ってる意味がわかんない
愛 :そゆのって?
友美:いやぁ、ここと、ここで、そういうの
優人:いまからやる?(棒読み)
愛 :あー、そうね、やろっか(棒読み)
友美:すごいね
優人:なにが?
友美:すごいわ
愛 :ともちゃん、なにが?
友美:あー、地球が破滅しても、ないんだな。って。いう感じ?
愛 :うん
優人:ないね
友美:結ばれる人って、やっぱり、結ばれるようになってるんだね
愛 :そっち?
友美:いや、優人と愛ちゃん見ててさ
愛 :うん
友美:結ばれない人って、こんなに近くに居ても、結ばれないのかぁ。って実感しました
愛 :優人さん、
優人:なに?
愛 :このひとさ、
優人:うん
愛 :やっと、なんかわかったみたい
優人:そうですね
愛 :見て、この顔
友美:なにか、変かしら?
優人:あぁ、逆説的に、なんか幸せ感じてる感じってやつですか?
愛 :そうそう、旦那ちゃんにさ、運命感じてるの、この人
優人:いやなやつですねー
友美:そういうわけじゃないけど
愛 :けど、それっていいと思うな?。戻れるんだから、戻るところにちゃんと
優人:戻るところね?
愛 :私は、あれよ。ここに、こうやって、戻ってきただけだけどね
優人:おつかれさまでした
愛 :いえいえ、恥ずかしながら帰って参りました
優人:そうやって笑ってるけどさー、疲れるっしょ?
愛 :そりゃ、つかれるよー
友美:もうちょっとがんばろ
愛 :ともちゃんとこは大丈夫大丈夫
友美:そう?
優人:大丈夫だよ、友美の家の嫁さん、引き取り手が無いもん
友美:ちょっと私じゃん!なにそれ!
優人:ないだろーが(笑)
友美:ないけどさー、優人に言われると、なんかむかつく(笑)
愛 :(笑)


愛 :愛(N)「キッチンのカウンターを挟んで、3人で話した遅めの朝食。
    なんだかともちゃんの言った言葉のいくつかが耳に残って。
    数日前まで私ひとりで使っていた台所と、食卓に、
    ふたりの笑顔があることに、少しだけ、救われた気がした。


愛 :タイトルコール愛(N)「I call Your name(あい こーる ゆあ ねーむ) 第2話

  -ここで第2話終わり-



 ***第3話***

   ***

 *歯ブラシの音
 *歯ブラシをしながらで、ふたりちゃんとしゃべれない
優人:合宿みたいだったな
愛 :ともちゃんかえっちゃったね
優人:なんて?
愛 :ともちゃんかえっちゃったね?
優人:保母さんがなに?
 *水道の流れる音
愛 :ともちゃんかえっちゃったね
 *歯ブラシの音
 *歯ブラシをしながらで、ふたりちゃんとしゃべれない
優人:あぁ帰ったね
愛 :昨日寝れた?
優人:うん
愛 :そか
優人:合宿みたいだったな
愛 :はっさく?
優人:うん、合宿
愛 :はっさくみたい?
優人:うん。合宿みたいだった
愛 :なにが?
優人:なにがって?なにが?
愛 :はっさく?
 *水道の流れる音
優人:合宿みたいだったねって、言ったんだけど
愛 :あーーー、はいはい
優人:なんか違ってたろ?
愛 :はっさくみたい。って聞こえたから、なにがはっさくなのかわかんなくて。
愛 :昨日食べたピンクグレープフルーツは、確かに八朔みたいだったけど、それ、歯磨きしながら言うことかな?って思って聞いてた、はい、タオル
 *歯ブラシをグラスに立てる音
優人:(真顔で)昨日のグレープフルーツ、八朔みたいだったね
 *歯磨きを再開する愛。シャカシャカ言ってる。
愛 :うん
 *水道を止める
優人:いやいや、西浜?
愛 :え?
優人:グレープフルーツをたとえるのに、八朔って、センス無いじゃないですか?
愛 :うん
優人:そこ、笑うとこだと思うんですよ
愛 :だって、おもしろくなかったんだもん
優人:え?なんて?
 *水道を出す
愛 :だって、おもしろ/くなかったんだもん
優人:(さえぎって)言うなよ。わかるよ。
愛 :だって、きくから
優人:真顔でさ、『おもしろくなかったんだもん』って言われる身にもなってくれよ
愛 :慣れてると思って、そういうの
優人:ちょっと、誰が慣れてるって?
愛 :優人くん★
優人:あのなぁ
愛 :優人くんなら、おもしろくないって言われても、きっとそういうの、慣れてるんだろうなぁって思って★
優人:かわいく言ってもだめだからな
 *歯ブラシをグラスに立てる愛
愛 :えへ★
優人:はいはい。タオルここ投げといていい?
愛 :いいよ、すぐ洗濯回すし
優人:そういうキャラだったっけ?
愛 :自分でもわかんない
優人:高校の頃、えへ★とかやった?
愛 :ないない
優人:だよな
愛 :だって、そういう冗談を言う機会なかったもん
優人:なんか、すっげぇ暗いイメージしかない
愛 :私も
優人:ずっと、図書館に居て、隅っこの席で読んでるイメージしかない
愛 :うん。事実だしそれ
優人:似合うから、やったほうがいいよ
愛 :なにが?
優人:ぶりっこ
愛 :そうかしら?★
優人:あー、なんか、あれだな。不器用なんだな
愛 :33の女にやらせるからよ、困るわよ
優人:年取ったなー
愛 :それ、すっぴんのときに言わないでよ
優人:いやぁ、お互い
愛 :まぁ、こうやって、鏡の前に並んで会話することもなかったしね
優人:俺、これでも高校生だったんだぜ?
愛 :うん。知ってる
優人:だよなー
愛 :年月って残酷
優人:西浜ー
愛 :なにー
優人:表札さ、
愛 :ひょうさつ?
優人:玄関の、アレの名前、潮崎のままなのな
愛 :あー、うん
優人:変えないの?
愛 :ん?、変えたところで、なんの変化もないし、職場では、まだ、潮崎のままだし
優人:旧姓に戻さないの?
愛 :なんか、いろいろ手間でさ。電気代もガス代も、水道代も、潮崎愛で来てるし、銀行も、潮崎愛だし、
愛 :運転免許書き換えたら、たぶん、いろいろやらなきゃいけないけど、それまで、なんかずるずる来てる感じ。
愛 :変えたほうがいいのかな?
優人:いや、べつに、いいと思うけど
愛 :近所づきあいあるわけじゃないけど、さ。なんかそういうのも、なんかあるじゃん?
優人:現実か
愛 :わかんない。どっちが現実で、どっちがまぼろしか
優人:西浜、愛は、どこいったの?
愛 :さぁ、わかんない。どっか、置いてきたのかもしれない
優人:西浜って呼ばれるの迷惑?
愛 :なんで?
優人:潮崎って、呼びにくいし
愛 :べつに、優人は優人じゃん?いまさら、急に変えられても
優人:なんて呼ぼうか、迷ってさ
愛 :この鏡に映ってるのは、なんだとおもう?
優人:すっぴんの33歳の女性?
愛 :それ
優人:なんだろう
愛 :でしょ?ホントそれ
優人:職場では?
愛 :潮崎さん
優人:友美には?
愛 :愛ちゃん
優人:おれには?
愛 :西浜
優人:西浜?
愛 :はい
優人:潮崎?
愛 :はい、なんでしょう
優人:……愛、
愛 :……どうしよう
優人:なに?
愛 :優人にさ、
優人:うん
愛 :真顔で、下の名前呼ばれるとさ
優人:なに?
愛 :……
優人:……
愛 :……
優人:……
愛 :……なんか、笑いこらえるのに必死になる
優人:おいおい(笑)なんだよそれー(笑)真面目にやったのに
愛 :(笑)ごめんごめん。
優人:もーいいよ、外出て、テキトーになんか昼飯食いにいこう
愛 :うん、そうしよう

 *スリッパの音ふたつ
愛 :何食べたい?
優人:何だろ?
 *出ていってドアがしまる


愛(N)「鏡の中の優人と、私。
    ふたりならんで、歯を磨いて。
    ふたつならべたコップに、歯ブラシを立てた。
    鏡の向こうの優人に呼ばれた、いくつかの名前。
    私は、結局、なんなんだろう?
    高校生の頃は、ちゃんと私は私だったはずなのに、
それすら、遠い昔のことのように思える。
    化粧をすることを覚えたころから、
    私は、
    私の名前すら、置き去りにして歩いてきたような気がした。


タイトルコール愛(N)「I call Your name(あい こーる ゆあ ねーむ) 第3話

  -ここで第3話終わり-



 ***第4話***



 *落ち着いた音楽のかかる店内
 *駆け寄ってくる優人
 *グラスを置いて、
 *席に座る
友美:遅くない?
優人:いや、急に呼び出されても
友美:なににしたの?それ?
優人:カフェモカ
友美:ふーん
優人:なにのんでんの?ブランデー?ロック?
友美:ウーロンハイ
優人:すげぇな、シアトル系コーヒーショップ、ウーロンハイおいてんの?
友美:あのねぇ
優人:なに怒ってんだよ
友美:アイスティーです
優人:いいよ、なんでも
友美:まだ、一緒に住んでるわけ?
優人:なんで怒ってんだよ?友美が?
友美:あのねぇ、3か月ってなに?
優人:いや、本人同士で合意の上だからいいじゃん?
友美:やることやったんでしょ?責任とりなさいよ
優人:やることってなんだよ、やってねぇし
友美:それもひどくない?
優人:あのさー、関係ないじゃん?
友美:責任感じてるの。私
優人:いや、それ、それが必要ないって言ってんの
友美:なんていうの?けしかけたっていうか、差し向けたっていうか、人間のクズを送り込んでしまったっていうか
優人:……だからさ
友美:よかれと思ってしたことがさ、裏目にでることってあるでしょ?
優人:あいつがなんか言ってたのかよ
友美:特に、なにもないんだけどさ、佐々木さんの誘い断ったって聞いて
優人:佐々木?
友美:女子会やろうって、言ってて、私は、次男坊が熱だしていけなかったんだけど
優人:そんなのあったの?
友美:うん、先週の10日の夜
優人:ふつーに帰ってきて家でテレビ見てたけど?
友美:あんたがいるから、晩御飯つくらなきゃとか、
優人:10日は、俺つくる当番だったし
友美:それよ、あんたがつくるから、帰らなきゃとか、そういうさー、あるじゃん?
優人:行くんだったら、行くっていうだろうし、仕事で遅くなるっていう日は、連絡あるし
友美:そういうのが、愛ちゃんの負担になってたら、どうしようって、思うじゃん? こっちとしてはさー
優人:そういうもんなの?考えたことなかった
友美:だから、さ、あんたみたいなヒノキの棒みたいな装備でスライム相手に奮闘してるような男じゃさ
優人:それ、ひどくないか
友美:いきなり魔王行ける?
優人:そりゃ、厳しいだろうけどさ
友美:そういうことなのよ。だから、だから心配になるのよ
優人:俺に言うことじゃなくね? あいつに直接聞けばいいじゃん
友美:言いづらいじゃん、優人と、そういう関係になってつらいんでしょ?とかさー
優人:だからー、そういうとか、無駄に含みのある言い方しなきゃいいじゃん
友美:なによー、含みのあるとか、なにも深い意味は無いわよ
優人:変な目で見てんのそっちじゃんよ
友美:だって、年頃の男女が、一つ屋根の下にいたら、だって、
優人:脳みそお花畑だな
友美:だってー
優人:恋愛に興味の無いおばさんの家に、恋愛とか考えるのもめんどくさいおっさんがひと部屋借りてるだけじゃん
友美:でもさー
優人:だから、無いって言ってるだろ?
友美:でもさー、無いのに、同居するのも変な話じゃん
優人:すぐにどうのこうのってわけでもないじゃん
友美:はっきりしたほうがいいと思うの、私は
優人:はっきりってなんだよ
友美:愛ちゃんは愛ちゃんで、再出発切ったばっかりなのよ、わかるでしょ?
優人:そりゃわかるけど
友美:いらないもの捨てて、すっきりしたかったはずなのに、人間のクズが居座ってるわけじゃん?
優人:わかったよ、俺が出ていけばいいんだろ?
友美:そういう話じゃないじゃない
優人:なにが言いてぇのかわかんねぇっつってんだろ?
友美:あんたが、優人がはっきりしないから、愛ちゃんもはっきりできないんじゃないの?って聞いてるの
優人:なにを?なにをはっきりさせればいいんだよ
友美:いつまで居候する気?
優人:どっちみち、あと数か月したら、年度代わりの人事のアレが出る季節だから、どうにかなったら、転勤になるわけだし
友美:それって絶対なわけ?
優人:知らねぇよ
友美:じゃあ、それが、転勤とかなかったら?
優人:そのとき考えるよ
友美:それじゃ、ダメだって言いたいの、私は
優人:だからさ、
友美:うまくやってるとか思ってんじゃないの?
優人:うまくやってるよ
友美:あんたは、愛ちゃんのやさしさに甘えてるだけなの、そこんとこ、ちゃんと考えて、期限つけないとダメだと思うの
優人:わかったよ。それ?呼び出した理由
友美:真剣に考えて
優人:なんなんだよ、意味わかんねぇ
友美:あのね、私はさ……
優人:……なんだよ
友美:優人のこと好きだったんだよ
優人:……え?なに急に
友美:だから、高校のころから
優人:それ言われても、友美は結婚してんじゃん
友美:だから、高校のころから、ほどよいところまで、好きだったの、あんたが
優人:……はぁ
友美:自分でもよくわかんないんだけどさ、
優人:……今さらだろうが
友美:でも、しょうがないじゃん
優人:今でも、好きでいてくれるわけ?
友美:それは無いけど
優人:無いんじゃん。同窓会の夜に、あいつと居たからいけなかったの?
友美:べつに、そういうわけじゃないけど
優人:三次会まで行って、そのあと終電逃して、友美抱けばよかったの?
友美:やだ、きもい
優人:そう言うじゃん
友美:そういうのとはちがうじゃん?高校生のころの、そういうのは
優人:んじゃ、いいじゃん
友美:妬いてたのかもしれないけどさ
優人:……それで?
友美:だけど、高校のころから、そりゃ、しばらくブランクあったけどさ、
優人:……うん
友美:だけど、一緒に笑って、一緒に真夜中までお酒飲んで、何話したか良く覚えてない話とかしてさ、
優人:……うん
友美:私は、私で、あぁ、高校生の頃、片思いしててよかったな。って思ったの。ちゃんと。
優人:……
友美:ちゃんと思えたの。優人が、まわりの男子と同じように、それなりにおっさんなって、がっかりしたけどさ
優人:……
友美:だけど、一度、だって、あの、高校生の頃に好きになったんだもん、幸せになってほしいって、そうやって思うじゃん
優人:……
友美:ダメ?そりゃ勝手かもしれないけどさ
優人:……勝手だよ、充分
友美:……ごめん。私、考えすぎてた。ごめん
優人:……
友美:……ごめんなさい
優人:……べつに謝んなよ。
友美:……ごめんなさい
優人:……俺だってさ、久しぶりに話せたヤツで、あぁ、高校の頃、良いクラスメイトに出会ったんだな。って
友美:……クラスメイト
優人:友美が、あいつの家に一緒に住めばいいじゃんって言いだしたときもさ、そりゃ、ノリの勢いで、俺も、馬鹿だったなって思ったけど、でも、3人で酒飲んで、ついでに、この3か月で、何回呑んだよ?この3人で。
優人:そういう、再会とか、そういうのも合わせてさ、居ていいのかな。ってそう思える場所にさ、
友美:……
優人:……恋愛感情が無きゃいけないのかよ。そういうの、めんどくせぇし、そういうの違げぇし、そういうしがらみみたいなのをさ、窮屈に思ってる人間が、さ、お互いに、ちょっと羽休めさせてもらってるだけじゃんか
友美:優人も、いろいろあったの?
優人:無いわけないだろ。33年生きてきて、無いわけないだろ
友美:……ごめん
優人:そういうのをさ、言わなくてもわかる時あるじゃん。
   バツがついたとか、そういうひとことふたことでさ……。
   でも、俺も浅はかだったかもしれないしさ。
   友美に、そういう、心配かけさせてたってのも、
   冷静に考えれば、俺が、あの家に転がり込んでいいわけないしさ
友美:ごめん、わかんないけど、心配だったの
優人:ありがと
友美:アタシは、さ、気づかされたの。
   いろいろあって、自分がわずらわしくてもう、ウザい!って、飛び出した場所が、
   アタシ自身の居場所だったから。
   そこに、帰った時に、アタシはシアワセだったから。
   だけど、自分の言ったひとことだけで、ふたりを、ふたりのしあわせを奪ってしまっていたらどうしようって。
   ふたりが気を遣(つか)って、私が、呑みたいときに、行ける場所をつくってくれて、
   いつでもおいで、って笑ってくれたから、だけど、そうやって思って、思うことが負担になってたらどうしようって。
   だって、ふたりとも優しすぎるんだもん
優人:……友美
友美:……ごめん、なんか全部、私のわがままだった
優人:……話してみるよ。俺の身の振り方も含めて、さ
友美:それも迷惑だったらどうしよう
優人:この数か月間さ、
友美:……うん
優人:なんか、自分の、なんて言ったらいいかわかんないけどさ、
友美:……うん
優人:このへんにこう、魚の骨みたいにつっかえてた、膿(うみ)みたいのがさ、ちょっとずつほどけてった気がしてさ
友美:……うん
優人:だから、あいつにも感謝してるし、友美にも感謝してんだよ
友美:……そういうこと言うから
優人:泣くなって
友美:……だって
優人:オトナんなってさ、夏休みとれねぇじゃん?ずーっと、毎日がつながってさ。
友美:うん
優人:そろそろ、夏休み終わりにしねぇといけないのかもしんないしさ
友美:うん
優人:ありがとな。友美
友美:ごめん
優人:だから、いいって。俺もごめんな
友美:優人は優しすぎるんだよ、だから、勘違いするんだから。
   もー、謝るんなら、ここのミルフィーユおごって
優人:はいはい、しかたねぇな。ちょっと待ってろ
友美:もー、アタシめんどくさいな
優人:いいやつだよ、馬鹿だなったく

 *足音。優人のスニーカーor革靴
 *友美の声が遠くで聞こえて、
 *優人の足音がメインになる

友美:もーなんかやだ。アタシ、なんなんだ。もー


 *優人の足音がメインで響く
 *優人の足音が止まる

優人:愛、いたんだ
愛 :……ごめん。先に来てた
優人:聞こえてたんだろ?
愛 :……ごめん
優人:誤る事じゃないし、あんな話になるとも思わなかったし。
   帰って、ちょっと話すわ。
   ケーキ買ってくるから、テキトーに、先、帰ってて。ごめん
愛 :……うん

 *優人の足音が去っていく


愛(N)「聞こえてたのは、偶然で、
    いっそ、聞こえてなかったよかったのに。なんて思って。
    優人が私の横を無言で通り過ぎたあとで、

 *椅子を立つ愛

    私は、そのカフェから、逃げるように立ち去った。
    私は、あんなに誰かを心配することができるだろうか。
    そして、私の心の中に広がったこれはなんだろう。
    ぽっかりとくちをあけた、正体不明の暗闇は、
    ただ、あの場所に居てしまったことへの罪悪感だけなんだろうか。

タイトルコール愛(N)「I call Your name(あい こーる ゆあ ねーむ) 第4話

  -ここで第4話終わり-



 ***第5話(最終話)***


 *玄関のドアが開く音
 *スリッパの足音が近づいてくる

優人:ただいま
愛 :うん。おかえり
優人:あのさ、
愛 :うん。
優人:……さっきの話しだけどさ
愛 :良いと思うよ、好きにすれば
優人:アパートが見つかったら、引っ越すよ
愛 :うん、良いよ。もともと、さ、そういうふうに言ってたじゃん?
優人:……うん
愛 :え? なに?なんか変な空気とかにしないでよ、やめてよ
優人:いつかはさ言おうと思ってたしさ
愛 :そうだよ、別に、おじいちゃんとおばあちゃんになってもここにいるとかそういうんじゃないんだし
優人:友美の心配をさ、真に受けるわけじゃないけど、
愛 :いや、真に受けて正解だと思うよ。あれだけ、心配してくれるひと、たぶん、そうそういない。と、思うし、人妻だけど
優人:そうなんだよ、もう、人のもんだからさ、ああいうひとを、たぶん、出逢えたら、よかったんだけどな
愛 :次の、休みにでも、さ、不動産屋さん、見に行ったら? 会社の近くとか、一駅隣とか、二駅となりとか、そういうところに、探せばあるだろうし
優人:そうするよ
愛 :今日、仕事で、つかれたからさー、もう、私寝るね
優人:あのさ、
愛 :ごめん、おやすみ
優人:……おやすみ

 *スリッパの歩く音
 *ドアを閉める愛


愛(N)「たぶん、こういうことでもない限り、
    私にも、わからなかったことだと思う。
    ただ、その日が、たぶん、今日だっただけ。それだけ。
    彼に対して情けがあるわけでも、
    彼が居なくなることに、恐怖があるわけでもない。
    けれど、
    真っ暗な部屋のベッドに横になって、
    私の心の中に広がったこれはなんだろう。
    ぽっかりとくちをあけた、正体不明の暗闇は、
    ただ、彼をこの家に受け入れてしまった、後悔だけなんだろうか。
    自覚したくない私自身の想いが芽生えて、
    頬を流れていったのが、涙だと知った


タイトルコール愛(N)「I call Your name(あい こーる ゆあ ねーむ) 最終話


 *ドアをノックする音
 *扉の向こうに優人。
 *扉のこちら側に、愛。(LRでも可)
優人:……あのさ、起きてる?
愛 :……なに?
優人:入っていい?
愛 :入っていいわけないじゃん?
優人:そうだよな
愛 :でもさ、嫌な予感ってあたるよね
優人:どういうこと?
愛 :私が今、ここ、開けなかったらさ、たぶん、今日か明日の朝早く出ていくでしょ?
優人:なんで?
愛 :だって、段ボール箱と、ガムテープ、置いてたらわかるよ
優人:そのつもりなんだけどさ、
愛 :あけたほうがいい?
優人:後悔しそうだから
愛 :なんで?
優人:わかんないけど
愛 :じゃあ、さ
優人:なに?
愛 :そこで、答えて?
優人:なに?
愛 :このドアのこっち側にいるのは、なんだとおもう?
優人:33歳の女性?
愛 :そう、来年34になるこの女性
優人:なんて呼べばいい?
愛 :呼べる?
優人:呼んでいいなら
愛 :それは、こっちが言えばでしょ?
優人:ただ、ひとつ消去法で決めるなら
愛 :なに?
優人:潮崎以外で
愛 :ねぇ?
優人:なに?
愛 :潮崎愛ってなんなんだろうね?
優人:なんなんだろうって?
愛 :私が持ってる社会的つながりのさ、ほとんどをその名前が担っててさ
優人:うん
愛 :男の人にはわかんないだろうけどさ、お役所に出す紙切れ一枚でさ、どうにでもなるらしいのよ
優人:どう呼んだら、良いんだろうね?
愛 :優人が決めれば、それでいいじゃん
優人:西浜?
愛 :誰だろうね?それ、どっかおいてきた
優人:あのさ
愛 :ねぇ、西浜愛って、いつまでやってたんだろ?
   お正月に、実家帰ってもさ、うまくなじめないんだけど、アタシなんなんだろうね?
   遠慮しちゃってる私がいけないのかな?
優人:俺さ、
愛 :優人さん?そこから先は、言わないほうがいいと思う。きっと、自覚しないほうが、良いと思うよ?
優人:でもさ
愛 :一度言っても、今は、たぶん、そう思ってもさ、それって、永遠じゃないから
優人:後悔するよ、きっと
愛 :後悔するよ。きっと
優人:……。
愛 :たった3か月だよ?
優人:その前から思ってても?
愛 :何年会ってなかったと思ってるの?それにさ
優人:それに?
愛 :高校のときだって、私たち特になにもなかったじゃん? なんで?
優人:4年前の同窓会で、さ、愛が結婚してたって聞いて
愛 :したよ、4年も付き合って、なにもかも知ってたと思ったのに、ダメだったんだよ。書類一枚で離れるのに4年もかけてさ、馬鹿みたいでしょ、私
優人:高校生の頃から、ずっと好きだったんだ
愛 :誰かも言ってたじゃん、今日二度目、そのセリフ
優人:俺じゃダメか?
愛 :勘違いしないで。私だから、ダメなんだよ。私だから、うまくいかなくなるんだよ
優人:もう、終わり?
愛 :もう、やめよう?
   一緒に居ちゃいけないのよ。恋愛ごっこなら、よそでもできるはずでしょ?
優人:……
愛 :不幸になるのは、私だけで充分だから
優人:そんなこと/
愛 :私は私で、たぶん、前のこと引きずってるし、君は君でいろいろ引きずってるんだよ
優人:……
愛 :だから、そういうのぜんぶごっちゃになって、情けと、恋と愛と、そういうのわけわかんなくなってるだけなんだって
優人:……
愛 :私もさ、友美がうらやましくて、あぁ、この人と生きていくんだなとかって思ってみたいよ?
   そういうの、思ってみたいし、感じてみたいけどさ。
   たぶん、壊れてるんだよ。私のセンサーみたいなの。
   だから、でたらめなんだよ。よくわかった。
   君みたいな人に、3か月、たった3か月居候されただけで、
   突然出て行くって言われるってわかって、私の涙腺崩壊するんだから、
   たぶん、私、さみしいだけなんだよ。
   この家が広すぎて、私の手に負えなくて、さみしいだけなんだよ。それだけ。
   だから、出て行って。
   荷物まとめて、この家から出て行って。
   私は、ここを出て行ける時が来たら、たぶん、それに、さ。
   友美が言ってたでしょ?
   結ばれない人って、こんなに近くに居ても、結ばれないのかぁ。って。
   私も実感しました。
   だから、これでいいんだよ。ごめんね
 *ドア開ける音
愛 :だめだよ、ルール違反じゃん、最初に言ったよね?
優人:この部屋には入るなって?
 *抱きしめる音
愛 :なんで?そういうことするの?私のこと抱きしめてどうにかなるの?
優人:愛、
愛 :だから、言ったじゃん?この部屋には入らないでって
優人:愛、俺、
愛 :泣いてるのばれるじゃん
優人:愛、
愛 :ねぇ?なんで私、泣いちゃうんだとおもう?その名前なのかな?私、その名前で居ていいのかな?
優人:離れたくない
愛 :なんでそうやって、入ってくるの? 簡単に、簡単そうに
優人:もう、離れたくないんだ。だから
愛 :……
優人:俺、愛のこと大切にするから、ずっと、そばにいてくれないか
愛 :……、優人


愛(N)「抱きしめられた彼の胸の中で、
    さっきまで私の心の中に広がった正体不明の暗闇がほどけて溶けていく気がした。
ぽっかりとからっぽになった私の心に、するりと彼が転がり込んで来る。
    その熱は、なんだか懐かしくて、高校生の頃を想い出す。
    私は決まって図書室の隅っこのいつもの席から、グラウンドを見つめている。
    その先にはいつも、サッカーボールを追いかける初恋のあなたが見えた。
    届かないと思って閉じ込めたはずの私の胸の中で、
    あなたへの思いは、変わることなく、再び時を刻み始めた


 *ほどよく音楽が流れたあと

タイトルコール愛(N)「I call Your name(あい こーる ゆあ ねーむ)

愛(N)「キャスト

優人 「冬凪優人(とうなぎゆうと)……XXXX
友美 「会沢友美(あいざわともみ)……XXXX
愛  「潮崎愛 (しおざきあい) ……XXXX

愛(N)以上でお送りしました。



  -終わり-





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