自由はジェラートに解けて
(じゆうはジェラートにほどけて)
作者
佐座創紀(さくらそうき)
概要
少女がジェラート屋へたどり着いた。
登場人物
- A●女性
- B●男性
本編
自由はジェラートに解けて(じゆうはジェラートにほどけて)
*車通りの多い道の音
●B:いらっしゃい。どれにする?
●A:(無言)
●B:今日のおすすめは、バニラ、ミルク、スタンダードなチョコレート。
●A:(無言)
●B:どれで悩んでる?
●A:(無言)
●B:そんな難しい顔しなくても。アウターガービッツの亜酸化人口着色料は使ってないさ。
●A:(無言)
●B:あれ?ニュース知らない?2、3日前に、そこの公園の向こうのでっかいスクリーンビジョンのニュースでもやってたけど。
●A:(無言)
●B:まぁ、とにかく、うちのジェラートは安全ってこと。
●A:……ピスタチオ
●B:ほかには?
●A:(無言)
●B:コーン?カップ?
●A:(無言)
●B:こっち?それとも、こっち?
●A:(無言)
●B:ん? ん?
●A:(無言)
●B:おっけぇ。じゃあ、カップにしとこうね。店の中のカウンターに椅子があるから座りな。
●A:(無言)
●B:急いでないんだろ?別のお客さんが来ちまうから、ほら。
●A:(無言)
●B:中へどうぞ。一番奥の席に座ってくれないか。手前はまだ、掃除しなきゃならない。
*ドアの音
*カウベルの音
*ドアの閉まる音
*外の雑踏の音が消える
*店内にかかるBGM
*足音
*椅子に座る
●B:はい、サービス。いつもは紙のカップで出すんだ。
●B:みんなさっさと逝っちまうから。今日は特別に、ガラスの器。
●A:……
●B:ゆっくり食べな。
*スプーンでアイスを食べている
●A:……
●B:ゆっくり食べればいいさ。現代はセワシナイ。今日は特別だ。
●A:……初めて来たのに?
●B:そうだよ。
●A:……
●B:どう?特別なスプーンとガラスの器で食べるジェラートは?
●A:……おいしい
●B:そりゃよかった。俺も好きなんだ。
●A:……
●B:紙のカップじゃなくて、陶器だったり、ガラスだったり。洗えばまた使える。
●A:……
●B:まぁ、商売する側からしたら、使い捨てってのはラクでいい。
●A:……
●B:けど、味気ないだろ?こぼすなよ?
●A:……
●B:ピスタチオの色が、Tシャツにくっついちまう。
●B:まぁ、こぼしたら、裏口から出て、外の水道で洗えばいいさ、今日みたいな暑い日なら、すぐに乾くだろ。
●A:……
●B:そ、あっち。ど?
●A:……おいしい
●B:そりゃよかった。気に入ったんなら、サービスしてやるさ。
●A:え、
●B:明日、また来ればいい。ちょっと後ろ通らせてもらうぞ。
●A:あ、うん。
●B:こうやってテーブルを拭かないと、みんなこぼすんだ。下手くそか!ってな。ハハハ
●A:…うん。
●B:ストロベリー、ルバーブ、赤ワイン、
●A:ルバーブってなに?
●B:赤色の茎をもつ葉野菜さ。ジェラートにすると酸味がちょうどいい。
●A:…ふーん
●B:イチジク、あー、ブルーベリーとラズベリーもそれっぽいな。
●A:……
●B:さ、お客さんだ。あんたは裏から帰りな。ジェラートは売るほどあるんだ。気にするな。
●A:……
*音量の小さめの足音
*表のドアが開く
*外の雑踏
*大人の足音
●B:いらっしゃい。ジェラートの注文は表のショーケースのほうできくよ?どうしたの?そんな忙しそうな顔して?
敵:……
●B:まぁ、暑いもんねぇ。エアコンの効きが悪くなるから、そのドア閉めてくれない?
敵:……
●B:閉めてくれない?
*ドアを強く閉める音 バタン!
*外の雑踏が消える
*銃声が3つ
*人が倒れる音
*ガラスの器が割れる音
●B:あーあ、割れちゃったじゃん。
●B:さっきオープン準備終わったのに、また掃除しなきゃじゃん。
●B:めんどくせーなー。
●B:あ、もしもし?俺、うん、そう。あのさー片付け、お願いしていい?3つ。はーい
*銃声
●B:往生際が悪いねぇ。
*銃声
●B:あ、この銃も案外使いやすいじゃん
***
●A:どうして?
●B:いらっしゃい。昨日はよく眠れた?
●A:どうして?
●B:今日のおすすめは、チョコレート、シチリアレモン、ストロベリー。
●A:(無言)
●B:ん。それね。コーン?カップ?
●A:(無言)
●B:こっち?それとも、こっち?
●A:……ガラス。
●B:おっけぇ。じゃあ、店の中にどうぞ。
*ドアの音
*カウベルの音
*ドアの閉まる音
*外の雑踏の音が消える
*店内にかかるBGM
*足音
*椅子に座る
●B:はい、ピスタチオ。
●A:ねぇ?どうして?
●B:あと、おまけ。その銃、いい手入れの仕方してある。使いやすかったよ。
●A:ここで?
●B:大掃除たいへんだったけどね?
●A:……私のせいだ。
●B:さ?どうかね?
●A:(顔を上げる)え?
●B:あんたのせいかどうかは知らない。
●B:店の中で暴れそうなヤツがいたら、片づける。それだけさ。溶けるよ?ジェラート。
●A:はい、これ。
●B:多くない?
●A:昨日のお代と、店の弁償。お気に入りのガラスの器、割れちゃったんでしょ?
●B:まぁね。陶器の器もステキだろ?
●A:うん。
●B:ゆっくり食べな。はい、おつり。
●A:どうして?
●B:ここはジェラート屋さんだから。
●A:……
●B:それとも、その金、明日以降使う予定が無い……とか言うつもり?
●A:……
●B:昨日さ、うちに、手紙が来てた。これ。
●A:……マザー。っあ。
●B:ご存じの連中か。
●A:(無言)
●B:警告。だとさ。
●A:……。
●B:おかしな連中だよなぁ。ジェラートしか売ってないのに。こっちがケンカ売ったみたいになっちゃってさ。はい、忘れ物。
●A:どうして、銃を返してくれるの?盗ったのはあなたでしょ?
●B:昨日は店を守るために盗った。けど、今日はもう必要ない。大事なお客さんの、忘れ物だから。
●A:気づいてるんでしょ?
●B:さぁね。
●A:……どうして
●B:俺はさ、明日も、明後日も、ジェラートつくって売ってたいわけ。
●A:(無言)
●B:んで、ここの席に、常連さんが座るわけ。
●A:まだ、2回目。
●B:もう2回目。それに、明日も来るんだろ?
●A:……
●B:そういう顔をするだろうと思った。
●A:……
●B:なぁ?どういう内容の契約ならいいんだ?
●A:契約?
●B:そ。契約。
●A:私は……生かされてるだけ。
●B:うん、いくらで?
●A:必要なものは。最低限。
●B:それと?
●A:生かされてるだけ。
●B:命の保証……か。
●A:ううん。ちがう。今は殺されないだけ。
●B:ターゲットを殺すまでは。
●A:(無言)
●B:じゃあ、それを上回る条件を、こちらが提示しよう。
●A:上回る条件?
●B:そ。生活と、命と、それと、ジェラート。
●A:……生きることに興味ないもの
●B:明日もジェラート食べたくない?
●A:マザーへの報告に「様子見」って書くだけ。それで、とりあえず明日はジェラートを食べられる。
●B:あさっては?
●A:「様子見」次第。
●B:そこに永遠の可能性は?
●A:もともとなかった命だから
●B:恩義に感じてるわけ?
●A:ううん、ぜんぜん。ただ、今は、生きてる時間が延びてるだけ。
●B:ターゲットを殺すまでは。
●A:そ。
●B:ターゲットが死ぬときは、ジェラートも食べられなくなる時、か。
●A:どうするの?昨日みたいにアタシも消す? 今なら、アタシの唯一の武器はカウンターの上。
●B:持ってるのはスプーンだけ。はっ(笑) それいいね。
●A:なんで笑ってられるの?
●B:明日もジェラート食べたいって、そのほっぺたに書いてある。
●A:……そんなこ、と…
●B:だって、ピスタチオだけじゃないから、うちのメニュー。
●A:あなたを巻き込むかもしれない
●B:もう、巻き込まれてる
●A:どうして私なんかに……。
●B:似た者同士だからさ。
●A:え?
●B:それに、この銃の手入れは、キミがしてるんだろ?
●A:……そうだけど
●B:3発目の装填。なんで空砲なんだ?
●A:……そうしろって言われた。
●B:だれに?
●A:……兄、のような人に。
●B:……兄、のような人ね。
●B:3発目の空砲は、4発目の精度を高めてくれる。
●A:知ってるの?
●B:とびきり腕のいい職人だった。
●A:拾われたの、その人に。
●B:なんだ、飼い猫か。
●A:もう、飼い猫じゃない。
●B:じゃあ、野良猫?
●A:死にかけの野良猫。
●B:ちょうどいい
●A:どうして?
●B:生活と、命と、……おまけに、ジェラート。
●A:あなたも、マザーに狙われることになるのに。
●B:もう、狙われてるさ。それと、
●A:それと?
●B:俺もあの人に憧れてた。永遠に、たどり着けないでっかい山みたいなもんさ。殺し屋としても、人としても。
●A:ジョーカーを知ってるの?
●B:俺の前では、ユダと名乗ってた。裏切り者のユダ。
●A:けど、死んだ。
●B:看取ってくれたのか
●A:なにもできなかった。
●B:幸せ者だな
●A:どこが?
●B:殺し屋なんて、ひとりで野垂れ死ぬもんって相場は決まってる
●A:(無言)
●B:けどな、ユダにはあんたがいてくれたんだ。充分さ。
●A:人はいつか死ぬ。そう言ってた。
●B:そうか。
●A:私も……そうだ
●B:どうする?
●A:どうするって?
●B:ジェラート。
●A:天秤にかけろっていうの?裏切りだと思われて始末される。
●B:天秤?いや、契約は、いくつもらったっていい。そうだな、優先順位が、手前の都合で入れ替わるだけさ。
●A:優先順位?
●B:そ。あーはいはい、いつか殺しますよ。って
●A:通用しないわ。
●B:だってチャンスが無いんだ。
●A:もたもたやってたらアタシが殺される
●B:死ぬことが怖いヤツのセリフみたいだ
●A:……。
●B:ひとりで死ぬ?
●A:もう、見送るのはイヤなの。
●B:あんたはちゃんと人間やってるんだな。
●A:知らない
●B:いいことだ
●A:どうして?
●B:ん?
●A:どうしてアタシに……
●B:俺が尊敬するあの人が、愛した人だからだよ。
●A:……
●B:それと、この店手伝ってくれそうな、ジェラート好きが必要だったんだ。猫の手を借りたい。
●A:お客さん来ないけど?
●B:昨日片付けたからね、常連のお客さん。ジェラート、おかわりどう?
●A:あなたのおすすめは?
●B:そうだなぁ。赤ワインはどう?
●A:ジョーカーが良く飲んでた。けど、マザーの好きな色。
●B:じゃあ、
●A:まかせる
●B:白ワインのジェラートをキミに。どうぞ。
●A:口説いてるみたいな言いかた。
●B:そうだよ、口説いてるのさ。
●A:冗談。
●B:猫より少しだけ、銃の扱いが上手そうだからね。どう?
●A:うん。おいしい。けど、マザーにはなんて言えばいいの?
●B:いいんじゃない?白ワインのジェラートのほうが美味しいって、素直にそう言えば。
●A:じゃあ、そうする。
●B:さ、また、昨日のお客さんだ。裏口に
●A:契約よ、ここにいるわ。
*ドアの音
*外の雑踏の音
*カウベルの音
*店内にかかるBGM
●B:いらっしゃい。
●B:おじさん2人がそんな怖い顔してさ。ジェラートの注文なら表のショーケースできくよ?
●B:昨日のおじさんたちと?あぁ、仲間ってわけね。
●B:冷房の効きが悪くなるから閉めてくれない?
●B:そうそう、いい子だ
*ドアを強く閉める音 バタン!
*外の雑踏が消える
*銃声が2つ
*人が倒れる音
*銃声が1つ
●B:うぐっ
●A:そ。契約よ。私の。
●B:嘘だろ。
●A:あんた、生きてんでしょ?マザーに伝えて、私の仕事は終わり。
敵:……
●A:どうする?伝えに帰る?それとも、ここで?死んどく?
*ドアの音
*走って逃げる足音
*外の雑踏の音
*カウベルの音
●A:さよなら
*ドアの閉まる音
*外の雑踏の音が消える
***
●A:『自由はジェラートに解けて』じゆうはジェラートにほどけて
●A:キャスト
●A:●● _____
●B:●● _____
●A:以上で、お送りしました。
***
*車の走っている音
*スイッチの音がして、BGMが途中からカットイン
●A:自由ってなんなのかしらね?
*着信音
●B:あ、もしもし?俺、うん、そう。あのさー片付け、お願いしていい?3つ。はーい。元の店主がバカンスから帰ってくる前に。よろしくー。
*通話を切る音
●A:バカンス?
●B:ん?そう。あ、言ってなかったっけ?あのジェラート屋、借りてたんだよ。
●A:借りてた?
●B:そ。あと1週間くらいで元の店主が帰ってくるから、それまでにはきれいにしとかないと。
●A:ふぅ~ん、あっそ。
●B:なに?ジェラート屋さんしたかった?
●A:べつに。
●B:ピスタチオと白ワインのアイスは俺が作ったオリジナルだから。
●A:(無言)
●B:機材と材料さえあれば、いつでも作れるよ。
●A:……べつに
●B:その助手席に座ってジェラート食べたかった?
●A:今?
●B:そ。
●A:……それは、ちょっとね
●B:次の仕事で、移動販売車にでも買いかえる?ど?
●A:ジェラートは夏の間だけで充分よ。
●B:じゃあ、来年の夏だな。
●A:……
●B:……
●A:楽しみにしとく。
*** おわり ***